続D級京都観光案内 3 ささやかな美味しいもの巡り 2
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前回金戒光明寺への参詣道、春日北通りに2軒の八ツ橋屋さんがありその近くに勝新太郎が愛した河道屋養老という蕎麦屋があると書いたが、今回もまずこの店から紹介しよう。
われわれ家族は、入り口左の作り付けの長椅子のある部屋を指定席みたいに利用する。なんといっても靴を脱がなくていいからだ。壁越しの隣の部屋が勝新太郎が庭から直接上がり込んでいたという伝説の部屋である。
私はにしんそば、妻は鳥なんばそして息子は天そば、そしてそば巻を2皿みんなで食べる。ほとんど毎回そうである。出てきたにしんそばを見て最初はびっくりした。付け合わせの刻みネギは小皿についてくるが、肝心のニシンが見当たらないのである。確かに、はい、にしんそばと出されたから、間違いではなかろう。恐る恐る箸を突っ込むと中ほどに手ごたえがある。大きなにしんが隠れて入っている。出汁の味は元から好きだが、にしんの味もとてもよろしい。女将に聞くと南座横の松葉さんのにしんですという。私にとっては松葉のにしんそばよりこの店のにしんそばの方がおいしいように思える。
そば巻のノリはとても上等でしかもパリッとしている。つけ醤油がこれまた逸品である。1皿なんかペロッと食べてしまう感じである。出されるお茶がこれまたおいしい。昭和からずっと使っているような古びた茶碗で出されるのだが、これまたいい。夏は天井の古びた扇風機からやや生暖かい風が流れてくるし、蚊取り線香がついていても蚊も入り込んできたりもするが、どれもこれも昭和の匂いがして好きなのだ。
晦日庵河道屋は市内中心部麩屋町通姉小路を少し下がったところになる。姉小路通を少し東に行くと蕎麦ほうる(一般には「そばぼうろ」)の総本家河道家がある。ホームページによると祖先は桓武天皇に従って移り住み、元禄の頃には菓子を商うかたわら、そばも商っていたというから凄いものだ。そんな老舗なのに間口はそう広くない町家風の店構えで、扱う商品も昔ながらの蕎麦ほうるのみというのが私のお気に入りのゆえんである。そば部門が分離独立したのが晦日庵河道屋で当主は15代目になるという。
一番の自慢は芳香炉という高級なうどん・そば鍋であるが2人前9500円というのはささやかな美味しいものという範疇からずれてしまうので、これはスルー。(河道屋養老でも名物養老鍋は4000円近くするので一度も食べたことがない。)そこで単品のソバを頼むことになるが鴨せいろが私は大好きである。鴨汁の出汁の濃さはコクがあるのはもちろん、鴨も多分合鴨だと思うのだが一度焼を入れてから煮汁にいれたのか香ばしく肉本体は柔らかい。もちろんネギも十分焼いてから汁がしっかりしみこませてありうまいのだ。なお単品のソバには季節のご飯をつけることもできる。
三条通りまで下がり東に行き寺町通を越えたすぐのところに本家田毎本店はある。信州更科の田毎の月から名前をとっていることでもわかるように、更科蕎麦のようだ。ようだとえらくあいまいなことを書くのは訳がある。正直に告白するとそばの味の微妙な違いが分からないのだ。出汁の味の方に騙されてしまうのだ。それでも田毎のそば自身の味はちょっと物足りない気もするが、まあ生意気に行ってみたかっただけの話である。
田毎そば、みそぎそば、京白みそそばなどこの店ならではの単品蕎麦もある。もちろん定番のそばメニューもさらにはセットメニューもたくさんあって、庶民が利用しやすい店である。なお私はここでも鴨せいろ(大盛り)を注文することが多い。「鴨の風味が京風のスッキリとした出汁にとけこみ絶品」と店の人は言うが、私には出汁はもう少し濃くてもよいかなと思う。「薬味に柚子胡椒をつけてあるのが田毎流」ともあるが、薬味はやっぱり山椒の方がいい。
本家田毎府庁前店は、丸太町通府庁前交差点を釜座通の一番西側の車線を北に行き下立売通の少し手前の西側にある。この通りには60分300円のパーキングチケット式駐車帯がたくさん空いているので短時間の駐車には便利だ。もっとも私は駐車スペースを見つけられたことに安心してしまい、さあお店に入ろうとチケットをとるのを失念し、30分後に帰ってみるとバッチリ駐車違反の切符の方を張り付けられていた。1万円の駐車代になってしまい、一気に気分が滅入ったことがある。自慢じゃないがその後はこういう失敗はしていない。
府庁前店のメニューは本店のものとは少し違うようだが、場所柄、仕事をしている人たちの昼食ニーズにこたえるものが多く、早く食べられてそれでリーゾナブルというもののようだ。
ここでも鴨せいろを注文することが多いのだが、一度だけ学生アルバイトが鴨そばを持ってきた。鴨せいろを注文したはずだがとアルバイトの子に聞いてみたが、はい、鴨そばですと堂々としている。「君ね、そもそも鴨せいろとはね、」と蘊蓄を傾けてアルバイトの子を教育しようかとも思ったのだが、大人げないかとやめてしまった。私は蘊蓄を傾けている積りなのだが、どうも話が冗長になり、聞く方は「早くしてよ。」となり、私は単なるぐちゃぐちゃ言いのクレーマーになってしまうことをうっすらと自覚していたようだ。
鴨そばは鴨せいろにの代わりはしてくれなかった。そうすると京つくね家で食べた鴨なんばを知らず知らず思い出してしまっていた。京つくね家は丸太町通川端東入東丸太町にある八起庵がプロデュースする定食屋だ。八起庵仕込みで味もよく、ボリューム満点でそれでいて安い。人気が出るはずだ。京大病院にも近いので研修医や学生もよく来るみたいだ。ただ席が狭く、しかも順々にそこに座れと指図されるのがくつろぎたい雰囲気で入った時はちょっと難点か。人気1番は親子丼、2個の卵でカシワをとじた上にもう1個卵の黄身が載っている、1430円。次のおすすめは鴨なんば。しっかりした鴨肉に九条ネギがたっぷり。鴨肉が好きな人にはこたえられない、1650円。この二つを半分ずつセットにした親子・鴨小セット、どっちもたべたいが多すぎるという人にはぴったり、1650円。定食はどれも安くてうまい。唐揚げ定食の唐揚げは、大きな皮付きのままから揚げし、それを7,8個に切り分けたものを下ろしポン酢をかけて食べる。1210円、安い。つくねあげ定食、丸めたつくねをフライにしてあげたものだが予想外にしつこくなくうま味だけあり、おすすめ、1210円。とりかつ定食、厳選地鶏の分厚いカツを、自家製ポン酢、からし醤油、卵の黄身入り特製ソースの3つの味で楽しめる。1650円だが定食だけより生ビールも欲しくなる。以上はすべてお手頃昼メニュー。夜の部ではいくらでも豪華ものがある。
田毎府庁前店のアルバイトの子が間違えたものだから、話は脱線してしまった。お店の名誉のために、豚肉せいろというのもあることを紹介しよう。鴨せいろの鴨の代わりに豚肉を使ったもので、豚肉と出汁のバランスがよく、うん、これもいけると満足したものだ。
田毎府庁前店から少し下がったところに魚菊というお店がある。その名の通り、魚屋さんであり、中央卸売市場から仕入れた新鮮な魚を商っている。煮たり焼いたりしてすぐ食べられるようにしたものもある。私はグジの塩焼き、タイのアラ炊き、鴨ロースの燻製をつい買ってしまう。鱧寿司もある。魚屋さんだけでなく、夜になると1階は立ち飲み屋に変身する。そして昼間は2階で寿司と海鮮丼を食べることができる。とってもうまくて激安である。所で残念なニュースだが、アルバイトが見つからないということで2階は営業していませんと最近言われてしまった。魚菊さんの昼の定食が常時食べられるようになることを切に願う次第だ。
魚菊から少し南に下がった椹木通を西に入ったすぐに銭幸餅とちょっと変わった和菓子と餅屋さんがあった。ネットでは柏餅が絶品とあるが、2月22日の猫の日には猫饅頭を売り出したり、冷凍の求肥(ぎゅうひ)を売っていて、解凍するとあのぷりぷりした触感の求肥になったのはびっくりした。ところが残念なことに2023年の3月に閉店した。ネットによると山科店はまだあるみたいだが、本店と同じものがゲットできるかは分からない。
まだまだささやかな美味しいものは見つけられるが、それは次回に。
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