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田中千足のコラム 第1回

メダカの産卵・孵化

メダカを飼うようになったのはクリニックのある患者さんに導かれてである。長く通って下さっていた患者さんだが、何か急に元気になられたようだった。「この頃メダカを飼っています。屋外飼育です。どんどん増やしているんです。ネットで希望する人には分けてあげて喜んでもらってます。」

 こうやって人の助けになることをしている、それが元気の素になっているみたいだ。治療者のはずの私の方が元気を貰おうとメダカを飼いだしたのだ。単に飼うだけなら自分だけの楽しみ、それにとどまらず、どんどん増やして欲しい人にあげるともっと楽しみは増すだろう。

 東広島市にあるメダカ本舗から毎年のように通信販売で買っている。増やすどころか毎年のように徐々に数を減らし、そして越冬させることに失敗したからだ。なるほどたまにはかわいい子メダカが生まれたこともあるが、これはたまたまというもので、あえなく姿を見せなくなり、増やすどころではなかったのだ。

 ところがほんのちょっとしたことに気づいた昨年から、わんさかといっていいほどメダカの産卵・孵化ができるようになったのだ。

 私たちは毎日の営みの中でちょっと気づけばクリアできることを、ついつい慣れ親しんだ方法にこだわってうまくいかないものだなあと落とし穴に勝手にはまってしまっているもののようなのである。


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