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続D級京都観光案内 17

狛蛇を訪ねて

本年2025年は巳年である。蛇を神使としている社寺を訪ねてみるのもパワーを貰えていいだろう。

そのものずばり狛巳すなわち狛蛇が置かれている大豊神社を紹介しよう。大豊神社は哲学の道を南禅寺側から5分ほど歩いたところに参道入口がある。石畳を行くとなかなか立派な狛犬がいる。さらに2対目の狛犬もいる。これまた風格があるいい狛犬だ。手水舎にやってくる。椿ヶ峰の御神水とある。この神社の裏山が東山三十六峰の一つ、椿ヶ峰で、そこから湧き出る御神水なのだ。

舞殿、絵馬堂があり、そこから石段を数段登ると鳥居と玉垣で仕切られた神域に入る。石段の両脇にも一対の狛犬がいる。これも見ごたえのある狛犬だ。石段を上がると正面に本殿がある。そして両側に一対の狛蛇が置かれている。右側にあるのはとぐろを巻いた白蛇の石像、口を開けこちらをにらむリアルな像だ。左側にあるのは光沢のある黒い石像で、とぐろの中から首を真上に突き出している。ちょっと気持ちの悪い姿態だが、目はこっちを向いていないから怖くはない。「平成249月中秋、奉納」とあるからずいぶん新しいものなのだ。

ところでなぜ蛇が神使なのだろう。祭神は少彦名命、応神天皇、菅原道真とある。宇多天皇の病気平癒を祈願して医薬の祖神である少彦名命を椿ヶ峰に勧請したのが由来だと伝わる。無事宇多天皇の病気は平癒したので、朝廷などから篤い信仰を得たという。医薬神少彦名命の神使は蛇だということだろうか。これはギリシャ神話の医薬神アスクレピオスの杖に巻き付く蛇や(WHOのロゴにも使われる)、ヘルメス神の持つ杖ケリュケイオンの2匹の蛇と同じ発想と考えていいのだろうかと思っていた。

ところがウェブ版「京都通百科事典」で、大豊神社に「青大将」が展示されているとある。私はすっかり見落としてしまっていた。「1995年(平成7年)9月に、本殿裏で採集された青大将。体長約1m60cm。」さらに「解説 わが国では古来、神の使者といえば蛇が一般的であるが、この蛇は東山十五峰椿ヶ峰に鎮座します大豊大明神の御神霊にて、その崇高なるご神徳をたたえ、開運招福、健康長寿を願う人々の信仰を集めております。」と解説文もついていた。狛蛇が奉納されたのはこれに因んでかもしれない。そもそも狛犬は神社が建立するのではなく、氏子などが何かを祈願して奉納するものだから、それに倣ってのことなのだろう。

いずれにせよ狛巳の駒札には、「ご利益 治病健康長寿 金運恵授 若返り」とある。若返りは蛇が何度も脱皮することからそれにあやかろうというものだろう。

本殿の右に行くと朱塗りの稲荷社がある。当然定番の狛狐が鎮座している。「ご利益 商売繁盛 家内安全 五穀豊穣 福徳 芸能」とある。

 さらに右に行くと大国社がある。有名な(京都検定問題頻出の)狛鼠が鎮座している。古事記にある大国主命がネズミに助けられた故事にちなんでいる。左の狛ネズミは長寿の象徴である水玉を持ち、右の狛犬は学問の象徴である巻物を抱えている。「ご利益 縁結 子授安産 学業 健康長寿 繁栄隆盛」とある。

今来たところを戻り本殿の左に進むと末社の日吉社と愛宕社が並んである。右の日吉社の前には狛猿が鎮座している。烏帽子のようなものをかぶり、右手には巫女さんが打ち鳴らすような鈴を持ち、左手には扇を持っている。愛嬌のある顔で舞を舞っている姿だろうか。「ご利益 魔除 厄除 方除 勝運」とある。左の愛宕社の前には狛鳶が鎮座している。愛宕社の神使は鳶なのだ。そのいわれが何かはよく分からない。「ご利益 防火 防災 幸福飛来」とある。

ネットを調べてみると神使が鳶のいわれが書いてあった。「元来愛宕神社(本社)の神使は、神社創建者の和気清麻呂がイノシシに助けられた故事にちなんで猪であるが、大豊神社の先代の宮司が、愛宕山の天狗がかぶる鳶帽子から鳶を神使にした」という。なんでも調べる人がいるのですね。感心するし、なるほどと納得できる。

大豊神社はこのように本殿のほかに4つの末社がありそれぞれが変わりだね狛犬を持っている。狛犬好きにはたまらない神社だ。そしてご利益もてんこ盛りである。そうそれに、立派な本家狛犬も三対もある。この神社をしっかり参拝しいろんな狛犬を観察堪能すれば、もう今年1年いいことだらけに決まっている。皆様も是非ご利益をお受けください。

  

 


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