D級京都観光案内 55

番外編 能勢・豊能町、亀岡市の農産物直売所巡り

「明智光秀を探して」と箕面トンネルを越えて能勢から亀岡へとあちこち回ったが、その行く先々には農産物直売所や地元産食材を使った店などが点在する。

私は日曜日ごとに箕面トンネルを越えて、農産物直売所巡りをしている。消費者は何を農産物直売所に求めているのだろうか。このことを調査している学者がいる。「鮮度の良さ」「価格の安さ」「安心・安全」「その土地でしか買えない特産物」という項目が高い指数を示している。

私たちの場合はどうか。確かに4項目はすべて当てはまると言っていいのだが、それ以上に毎週直売所巡りをしてしまうのは、強迫性である。先週そこに行ったから今週もそこに行かないと気持ち悪い、だから今日も行く、その強迫性である。日曜日の午前10時ごろ自宅出発だ。開店時刻が9時である各店にはちょっと出遅れているのは致し方ないことだ。

箕面トンネルを越えて止々呂美から国道423号線(摂丹街道)をまっすぐ北上するコースを取ろう。余野川を左手にみて車を走らせると、止々呂美バーベキュー場のところに日曜日だけ止々呂美ふれあい朝市が開催される。特産の実生ゆずをその農家ごとに特徴のあるしぼり汁が売られている。これは買いである。イワシの丸干し、ちょっと生臭く塩っぱいやつにこのゆずしぼり汁おたっぷりかけると塩辛い生臭さがものの見事にうま味に変わりお酒が何杯でも行けるのだ。正月飾り用の南天なんかはものすごく安くていいのがある。

さらに北に車を走らせると、金石橋の信号にやってくる。右に行くと豊能町高山地区に行く。戦国時代のキリシタン大名高山右近ゆかりの地で、「右近の郷」として売り出している。左に行くと妙見山に通じるが、すごいつづら折れの道であることは覚悟しよう。

信号をそのまま北に進むと、以前は「ふるさと」というドライブインだったところがBikers in TRUSTというバイクツーリスト向けのカフェがある。その隣に農家の物置を利用して老夫婦が営む農産物直売所がある。自分ちで食べるには多すぎたものを並べているという感じである。老夫婦との会話が一番の買いかもしれない。

さらに北に進むと豊能町役場がある余野にやってくる。役場の向かいにスーパーだいやすがある。冬になると駐車場の柵にイノシシの皮が何枚も干してある。猟師さんが獲ったイノシシが直接この店に持ち込まれているのだろう。イノシシ肉だけでなく牛肉もうまかったように記憶する。以前の丹波牛というブランド名は京都牛になったと店の人は言っている。

余野の次の信号切畑口のすぐの東側に豊能町直売所・志野の里がある。地元産の季節の野菜、特産のヤーコン、高山特産の真菜(まな)、高山ゴボウ、キヌヒカリ、大吟醸酒「右近」、すぐ近くにある山口納豆の納豆、豆腐などが売られている。5月には真竹も並ぶ。タケノコといえば乙訓のものだと思っている私でさえ、真竹でも結構いけると感じている。

志野の里の名前の由来は、このあたりで高山右近の妻・志野さんが生まれたことによる。志野さんもまた右近と同様マニラに流されその地で亡くなったのだろう。

ここまで来たのだから、山口納豆の工場・直売所にも寄ってみよう。切畑口の信号を東に進み、700mほど先の山口納豆はこちらという案内板に導かれて細い道を北に行く。200mほど行ったところの臨時駐車場に車を停め、ちょっと急な坂道を上がっていくと、工場・直売所がある。出来立ての納豆はもちろん、平成3012月多くの常連客に惜しまれつつやめた名物豆腐店・高田屋食品の大将監修の豆腐、厚揚げも売っている。

高田屋食品は切畑口から道なりにどんどん進んで、峠を越えたあたりにあった。この店のすぐ手前には、これまた小さな小さな直売所があったが、置いてある品物はせいぜい23種類だった。この道をどんどん行くとどこに行くか、見山の郷にやってくる。茨木市の北西部にある、昔からある農産物直売所だ。

山口納豆の工場・直売所には土日祝だけオープンの納豆食べ放題、大豆食堂、ぐりとよキッチンがある。午前11時開店だがすぐ一杯になるみたいだ。高田屋食品もそうだったが、自転車のツーリストもよく立ち寄る店で、店の前には自転車を架けておく棚も用意されている。

志野の里から先を急ごう。妙見口の信号のある三叉路にやってくる。左に曲がると野間峠を越えて、野間の大けやきの前にやってくる。野間峠の手前を左に入る道があり、これを登っていくと妙見さんの駐車場にたどり着く。

妙見口の信号を直進しよう。左手少し向こうにコスモスの里の大きな案内板が見え、ドライブインのすぐ隣におばあちゃんが日曜日だけやっている直売所がある。おばあちゃんはよく焚火をしていて、そこで焼いたサツマイモや餅を「まあ食べなさい」とお土産みたいにくれるのだ。

さらに北に進む。大阪と京都の府境を越え、亀岡市西別院町神地に入る。ガソリンスタンドを過ぎるとすぐに、みずほファーム西別院店がある。新鮮野菜、コメもあるが、なんと言っても売りは卵と地鶏肉である。店の前でおばちゃんの売っている巻きずしは三つ葉が利いているのか昔懐かしい味で大好きだ。

隣接して弁天の里というたまごかけごはんの店もあり、大人気だ。450円の定食は卵は食べ放題で、鶏の唐揚げ3150円を追加することもできる。10月のサイクリングの季節には長蛇の列ができるほどの人気店だ。

直売所の少し北側に、市杵島姫神社があり「乳の泉」と呼ばれる湧水がある。別名「御手洗弁天の水」とも呼ばれる湧水。乳の出がよくない婦人がこの水を飲めば、たちまち乳の出が良くなるという言い伝えから「乳の泉」と呼ばれているという。ここの水を汲みに来ている人も結構多い。

更に摂丹街道を北に進むと、西別院小学校がある柚原の交差点に来る。また寄り道して右に分かれる道を行く。摂丹街道は結構車の往来があるが、この枝分かれした道を走る車はぐっと少なくなる。私が初めてこの道を通ったのは雪のちらつく冬だったから特にそうだったかもしれない。道沿いに時々人家はあるものの、雪が少し強めに降ってきて、視界も悪くなり、なんともはや心細くなったものだ。ようやく少し広い道に合流し、東別院小学校の建物が見えてほっとした。合流点から少し北に行くと東掛(とうげ)の交差点がある。左に道を取り、さらに少し行ったところで川を挟んで左の脇道を下がると「いし田」はある。古い農家の座敷に上がり、ざるそば、御飯、だし巻のそば定食を食べる。

さらにこの道を行くと左手に石田梅岩生誕地がある。江戸時代、京の都で町人の生き方を分かり易く説いた「石門心学」の開祖は、この地で生まれたのだ。その家がそのまま残っている。

元に戻り柚原の交差点をそのまままっすぐ進む。2㎞ほど進んだところに笑路(わろうじ)の三叉路があり、「犬甘野そば」の大きな幟が立っている。この交差点の前に笑路直売所のテントが立っている場合がある。店に来るお客は少ないが、農家の人は5,6人も楽しそうに店番をしている。客一人だとちょっと圧倒されるが仕方ない。2年前までは正月用の葉ボタンがえらく安かったが、今年の年末はどうだろう。

笑路の三叉路を左に入り、しばし行くと牛小屋にのどかに牛がいて、田んぼが広がり、そば畑も美しいところに「犬甘野風土館 季楽(きら)」がある。犬甘野は標高400mの高地にあり、寒暖の差が激しくそばの栽培に適している。地元農家の人たちの作る手打ちそばが一番人気の店なのだ。炊き込みご飯やおにぎりをつけて食べて人も多い。保冷バックを持っていて30分以内にゆでますという条件付きなら生蕎麦も売ってもらえる。あいにく保冷バックがないときは乾そばなら分けてもらえるが、こちらも十分いける逸品だ。ついているダシもシンプルなのにうまいのだ。

餡入りの草餅も素朴な味だ。辛味大根などの特産農作物ももちろん並んでいる。

季楽からさらに西に行くと、先ほど立ち寄ったみずほファーム西別院店への近道への分岐点にやってくる。このあたりがゲンジボタルの生息地犬甘野ホタル農園で、6月上旬ころには川沿いにホタルが乱舞し、それを見に来る観光客で大混雑する。

さらに西に進むと能勢町に入り、降雪期には難所となる堀越峠を登り一気に下ると倉垣橋の交差点に来る。まっすぐ行くと能勢町の中央部、西部地区に行くのだが、午前中だけの直売所巡りでは左折して家に帰る方に道をとる。国道477号線で、見通しの良い広い道路である。車の通行量は少ないため気がつけば70/時くらいの速度で走っている。ところが驚くべきことに40キロ制限の標識が立っているのである。もっと驚くべきことは頻繁に巡回するパトカーが速度超過の車を実際に捕まえ、どんどん反則切符を切り血祭りにあげているのだ。このことを知らない車に速く行けとあおられても制限速度は守る方が身のためだ。

能勢けやきの里は左手に見える。広い駐車場がある。屋外に農産物が並べられている。その時期の目玉商品は朝9時の開店と同時に売り切れてしまうみたいだ。組合員の農家が途中で野菜を補充もする。どの野菜にも生産者の組合員の名前が書いてあり、毎週のように通っていると組合員の名前も大体覚えてしまう。さらに組合員が一人ずつ当番でいてくれて、似ている野菜の異同を教えてくれたり、食べ方の指南をしてくれる。時期によってはイチゴもでるが安くて甘い。花山椒もここのは安い。濃い目の出汁で牛肉をしゃぶしゃぶし、たっぷり花山椒を巻いて食べのは最高だ。栗も出るがその時期には朝早くいかないとなくなっている。

建物の中ではコメ、卵を売っている。コメはキヌヒカリがうまいが、お気に入りの生産者のものを選んでしまう。味に裏切られることはない。栗蜂蜜も出る。蜂蜜の中で一番癖がないようだ。

けやきの里から箕面側に来た野間稲地の交差点(摂丹街道の妙見口を左折して野間峠を越えて降りてくるとここに出る)のところに、天然記念物の野間の大けやきがある。けやき資料館があり、屋台カフェ・ありなし珈琲もある。大けやきにはアオバズクもやってくる。それを見ようと人もいっぱい集まってくる。すぐ近くに「薪パン日々」という行列のできるパン屋さんがある。国産小麦を材料に石窯で焼き上げるようだ。木曜から日曜までの午前11時開店で、売り切れ次第閉店になるという。

摂丹街道と国道477号で囲まれた地域の農産物直売所はほぼ網羅した。次号からは再びD級京都観光案内を続けよう。


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